軍事研究問題をめぐる日本パグウォッシュ会議の声明
――日本学術会議での議論によせて――
2015年以降、防衛省の予算による委託研究「安全保障技術研究推進制度」が開始され、17年度には予算規模が大幅に増額されるなど、防衛省から大学等への関与が目立ち始めると同時に、「軍事研究」と「科学」の問題をどう捉えるべきかをめぐる議論が研究者・市民の間で活発化しつつある。中でも日本学術会議では2016年5月に「安全保障と学術に関する検討委員会」が設置され、以来、2017年2月まで、10回にわたり、多様な専門家を招聘しての審議が続いている。
日本の科学者を内外に対して代表する組織であり、第二次大戦後に戦争への反省と平和国家建設の決意(1949年の設立宣言)に基いて設立された日本学術会議は、既に1950年と1967年にも「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」とする声明を発表している。今回はまだ「検討委員会」での審議の「中間まとめ」(1月23日)が発表された段階であるが、これまでの議論でも過去2回の声明の背後に「科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念」があったことが指摘されるなど、学術会議発足の「初心」とその基本的使命とを改めて確認しようとする姿勢が示されている点は注目に値する。
パグウォッシュ会議(1957年設立)は、核兵器廃絶と戦争の廃止を訴える「ラッセル=アインシュタイン宣言」(1955年)を原点とする国際的な科学者団体(1995年ノーベル平和賞受賞)である。わたしたちは、科学技術の軍事利用、科学者の戦争協力の究極の事例とも言える核兵器開発の歴史への反省の上に、核兵器廃絶を求め、「対立を超えた対話」と「科学者の社会的責任」を基本理念とした活動を行っている。そのめざすところは軍事研究を拒否しつづけてきた学術会議、戦争を紛争解決の手段とすべきでないとする市民社会の思いと一致している。特に、近年の日本における「軍事研究」拡大の動きは、科学が目指す本来の目的である人類の福祉と平和への貢献に逆行するものだと考える。また、学問の自由や研究の公開性・透明性が失われることで、科学や学術研究の健全な発展自体が阻害されることも懸念される。
わたしたちは、軍事研究問題をめぐる日本学術会議のこれまでの取り組みに敬意を表し、今回の検討においても歴史の検証に耐える原則的かつ良識ある結論が得られることを期待すると共に、同会議を含む日本の科学者コミュニティ全体および市民社会がこの問題の重要性を認識し、科学の軍事利用を許さず、学術が平和と人類全体の福利のためにこそ貢献できる社会をめざして、積極的議論を起こすことを呼びかけたい。
2017年3月6日
日本パグウォッシュ会議
代表 鈴木達治郎
副代表 栗田 禎子
高原 孝生
[賛同者]池内 了、稲垣知宏、梅林宏道、片岡勝子、小沼通二、沢田昭二、山崎正勝