日本学術会議の特殊法人化に反対する
-平和に対する逆流を止め、戦争阻止と核兵器廃絶を目指すために
政府は、日本学術会議を政府が設置し管理する特殊法人に切り替える法案を今国会に提出することを表明した。同法案は、1948年の日本学術会議法によって科学者の総意の下に設立され、75年余に渡り、国の機関として、独立して行政・産業・社会に対し学術の立場から科学的助言を行うことをミッションとしてきた日本学術会議を、根本から作り替えるものである。これに対して、日本学術会議会長経験者6名は、さきごろ(2月18日)同法案が日本学術会議の独立性と自主性を決定的に損ね、科学者アカデミーとして日本社会における責務の履行を困難にし、また、国際的な信頼も失いかねないとして、石破茂首相に対して法案の撤回を求める声明を公表した。少なからぬ学会や市民団体も同じ立場から政府法案を批判し、反対を表明している。市民のなかでは、法案反対のオンライン署名が大きく広がっている。
同法案は、2020年10月の菅義偉首相(当時)による日本学術会議会員候補者6名の任命拒否を淵源とし、この違法で不当な行為への批判を日本学術会議の法人化(これによって首相任命がなくなるという理由をもちだして)による「改革」という問題にすりかえて、日本学術会議の懸念も顧みず政府が強引に進めてきたものである。日本学術会議の「改革」には、現在の政権が推進する「大軍拡」路線に対して科学者の積極的な対応を要求する政治的動機があると考えられる。なぜなら日本学術会議は、創設以来、戦前の反省に立って科学者として軍事研究に従事しないことを宣言し、近年でも防衛省の安全保障技術研究推進制度について日本の科学者コミュニティに学問の自由の観点から慎重な対処を求める声明(2017年3月)を示すなど、独立で自主的な科学者アカデミーとして「大軍拡」政策の障害になりうるからである。
日本パグウオッシュ会議は、核兵器による人類絶滅の危機を告げ、戦争の絶対阻止、あらゆる紛争の平和的解決を世界にアピールした、1955年7月の「ラッセル・アインシュタイン宣言」(哲学者ラッセルと物理学者アインシュタインの名を冠し日本の湯川秀樹を含む11名が署名した。日本パグウオッシュ会議HP参照)の精神に基いて世界の科学者によって結成されたパグウオッシュ会議の日本拠点である。2024年の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞は、私たちにとって大きな喜びであり、世界の核廃絶を目標に核兵器禁止条約の日本の早期批准に取り組む日本の市民に対する世界の市民の激励でもあると思われる。被団協の授賞を称えるスピーチにおいて、ノルウェー・ノーベル委員会のフリードネス委員長は、冒頭にラッセル・アインシュタイン宣言の著名な一1 節を引いて核兵器廃絶が人類的課題であることを強調した。「私たちは人類の一員として、同じ人類に対して訴えます。あなたが人間であること(your humanity)、それだけを心に留めて、他のことは忘れてください。」
フリードネス委員長は、スピーチの最後に被爆者のみなさんに向かって「あなた方は世界が必要としている力なのです」と世界の希望を伝えている。今年、2025年は戦後80年、被爆80年の年である。日本学術会議は、日本学術会議法前文が述べるように「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と連携して学術の進歩に寄与することを使命」として設立された。戦争の阻止、核兵器の廃絶を願い、そのために活動する、私たち日本の市民にとって、1948年制定の日本学術会議法に基づいて運営し活動する日本学術会議は、「必要な力」であると考える。日本パグウオッシュ会議は、日本学術会議を作り替えようとする政府の法案に断固として反対する。
2025年2月22日 日本パグウォッシュ会議運営委員会

